記憶の暗号 – 物語のはじまり/記憶の途

世界は現象の蓄積である。
それはつまり、そこに物語があるということだ。
世界とは始まりの物語と終わりの物語の間である。
そして物語は無数に存在する。その昔、世界は物語として紡がれていた。
物語により世界は始まり、それは語り部により語 り紡がれる。その物語を知る者は世界を物語として捉え、あらゆるモノに物語を知覚していた。石 や土や風や空、血に父母に。

いつしか物語は語られなくなり物語は実態を失っ た。そして語り部は神との交感を失い盲となった。
緩やかに始まったはずの世界の変化は、段々と速 度を増して世界を全く別の色に塗り替えた。塗り 替えられた世界の色は濁って何色とも言うことが できない色になった。やがて物語も聞き取れなく なっていき、知覚そのものが薄れていった。

そしてある日、世界は物語を失った。
今では誰も物語を語れない。 物語は誰にも知れず消えていく。
これは失われた物語。 それは記憶の途である。


2013年/素材:鉄 独立行政法人 学位授与機構 小平本館設置作品