Memento mori 展にお越しの皆さま誠にありがとうございました

9月5日をもちまして阪急メンズ東京 ギャラリー タグボートでの Memento mori 展が盛況の中、無事終了致しました。
展覧会に来てくださった皆様に心よりお礼申しあげます。
今回の展覧会は改めて色々なことを考える良いきっかけでもありました。
今更ですが、私はモノを作るのが好きで、そこそこ作ることができるということを認識し、手仕事が好きで、その実感をこそ愛しているのだということを改めて理解しました。
よって、観念地獄の亡者に合わせて愛しい世界観を捨てることはしないようにしようとも思いました。
日々、なかなか真意が伝わらないなぁと苦心しておりますが、素材も手仕事も決して馬鹿にしてはいけないもので、なぜなら、本質に近いのは脳と言葉より、身体と素材なのだと考えているからです。
元素として根を同じくするモノたちが手を取り合って理解を深めることこそが、この宇宙で奇跡的に自転を続ける天体に住まう生物としての救いなのではないでしょうか。
まず「本質」があり、それに包括されながら意識の上ではそれと対峙するように、我々の自意識、意識や行動を通して見る「現実」があります。
私にとってはそれらを繋ぐものこそ三次元における元素の集合体、結晶のようなもの、それが「素材」なのです。

つまり、関係性を記せば、 「本質」 /「 素材」 /「 自己(意識・行動)」 という関係性になるでしょうか。

では本質とは何でしょう。本質とは定義できないものであり、定義をできないことが本質の本質だと考えます。
それを無理やりに定義しようとすれば、論理観念地獄に陥りにっちもさっちもいかなくなって、特定の場所で懺悔やカウンセリングを行わなければ現実と自己とパフォーマンスの整合性が保てなってしまうかもしれません。

本質を定義できないまま本質として理解し敬うことこそ、我々が口伝として語り継いできた数多の物語なのです。

古代の無文字社会からやがて記述の時代になり、語部が職能を剥奪され、文字が世界を覆うようになってから何百年という時が経ちました。
しかし忘れてはいけないのは、無文字、声音が元にあり、文字はすでに文字として媒体物であるということです。
つまり、文字は人類の作品であり、精神と声と物語を伝えるための媒体なのです。

だから、文字の生成には原初の、その土地の最も古い記憶が、何を文字に託そうとしたのかが、記録されています。
そこに土地の文化的な取捨選択・表現が息づいているのです。文字は記憶の方舟であり、一つの本質でありながら、本質を説明しえないものなのです。
ここに現代アートにおけるコンセプト信仰の危うさが垣間見られますが、文字は文字で、これから少しずつ実験的に作品に反映させていく所存です。

前述の通り本質とは定義できず、インストールもできません。そして既にして我々は本質に包括された一つの本質なのです。
故に本質は観察と自覚を通してしか理解され得ず、「私」という一つの本質への完全理解こそが、「道」というものなのだと思います。
素材にはその、「自己という本質の観察と自覚のきっかけ」が詰まっていると感じます。

この本質を仏性に置き換えれば、それはそのまま仏教の教えになり、世界を本質の関係性の響き合いとして捉えれば、空海の秘蔵法論になるというのは言い過ぎでしょうか。

話が少々観念的になってしまったので現実的なことに戻します。
私は思うのです。作品の購入は一つの愛なのだと。賛同なのだと。お金はあまり好きではないけれど決して汚いものではない。それとて我々が生み出し、元素として根を同じくする共同体の一部であると。
その素材と素材の交換を通して、また一つ輪が大きくなっていくことこそが、地道な愛と平和と環境保全への道なのだと私は考えるのです。
そしていつか近いうち、その輪と輪が繋がり規模を拡大していくことができれば、日本でも新たにポートランドのような自治が起き始める可能性があるかもしれません。

絶望と希望または憂と希望。それがそのまま展示を終えた現在の実感というものでした。
私はその現在に、生命を賭して善なるものを信じたい。未だ来らざる未来。それはつまり、恣意的なものを我々の選択で能動的に構築していく意思と行動が可能であるのだという希望です
展覧会に関わってくださった全ての人、物事、事象に、精一杯の感謝を捧げたいと思います。

ありがとうございました。
今後の活動は10月より台北での滞在制作を経て2019年の終わりを迎えます。
その後の作品制作につきましてはどのようなものが生み出されるかまだ未定ですが、現在考えられるのはよりメッセージ性の強い作品制作に取り組む一方、素材を通した本質との対話から目に見えないモノの受け渡しを可能にするような作品制作をしていきたいという大まかな方向性を感じています。
 
展覧会を通し、改めて現代を生きる一人の日本人として、「本質と自己を繋げる元素の集合体としての素材」の関係性について考えることができました。
最後に、展覧会に関わってくださった全ての方々、物事、繋がりに心よりご感謝申し上げます。
橋本仁